管理人コラム(2017年3月5日)

パワーリフティング補助員の心得



【補助員とは】

パワーリフティング大会における『補助員』とは、試技中の選手の補助や、バーベルの重量変更(盤替え)を行うスタッフであり、大会を開催する際には必ず必要になります。
補助員はその特性上、誰でもいいと言うわけにはいかず、ある程度体力がありルールを把握している人間が求められます、更にパワーリフティングの現状では働きに見合った対価を支払うのも中々難しく、大体はボランティアかそれに近いものになります、その為人数を集めるのが難しく常に不足気味となっています。
愛知県の大会でも、午前の部で出場した選手が午後の部で補助員をやるなどしてなんとな人数を確保している状態ですが、近年パワーリフティングではノーギアを中心に大会参加者も増える傾向にあり、今後補助員の数はますます必要になってくると思われます。
本コラムでは、補助員の仕事の内容や注意点について解説させて頂こうと思います、いくつか注意点はありますが決して難しいものではありませんので、運営より補助員を頼まれた時は是非気軽にやってみて下さい、特に団体に所属していない個人登録の方々も積極的に手伝って頂けると助かります。
重労働で危険も伴う大変な仕事ですが、自分が選手として出場する時にも誰かが補助員をやってくれていますし、その辺はお互い様でやってもらえればと思います、それに選手の試技を一番近くで見れるというメリットもあります。
また、女性の方や体力的に補助員が難しい方も、審判やスタッフをやって下さればその分の人手を補助員に回せる事になりますので、積極的に大会運営に参加して頂けると助かります。
(審判資格は競技歴等で一定条件を満たしていれば講習と試験を経て取得できます。)




【補助員の仕事内容と注意点】



★競技開始前★

依頼されたのが補助員のみの場合でも、試合開始前に必要に応じてミーティング等やる場合がありますので、会場には試合開始時間よりも早めに入って下さい、同時に会場の設営のような他の仕事も頼まれた時はそれに応じた時間に行く必要があります。
会場に着いたらパンフレット等に記載された補助員の配置表を見て自分の参加するセッションやプラットフォームを確認しておいて下さい。
試技の補助や盤替えは体育館備え付けのスリッパ等では出来ませんので、必ず室内シューズを持参し、トレーニングウェア等の動きやすい格好で来て下さい。
靴は安全靴のようなものであれば尚良いと思います。
全国大会ではスタッフ用Tシャツ等が支給されますが、地方大会では基本的にそういった支給はありません。
協会によって交通費や報酬が出る場合もありますが、額にはあまり期待しないで下さい。
補助員は基本的に5名が1チームで動く事になります、大会を円滑に進めるにはこの5人のチームワークが大事になります。
ルール上6人以上の補助員がプラットホーム内に入る事は出来ませんが、国内大会では補助員が6人以上になる事もあります。



★競技が始まったら★

補助員の仕事の流れは「バーベルの盤替え&ラックの高さ調整」と「試技の補助」の繰り返しになります。
まず、それぞれの注意点について記載します。



【バーベルの盤替えとラックの高さ調整の注意点】

バーベルの盤替えとラックの高さ調節とは、試技と試技の合間に、バーベルの重量とラックの高さを次に試技する選手の申請した数値に変更する事で、グッドリフトの画面や放送席からの指示を確認して行います。

  • バーベルのプレートは必ず最小枚数になるようセットします、つまりバーベルが75kgの場合左右のプレートは必ず25kg(+2.5kgカラー)となり、例えば20kgプレート+5kgプレート(+2.5kgカラー)というような付け方はしません。

  • 一番内側のプレートは、必ず数字が記載されている面を内側にセットして下さい。

  • セットされた重量が間違っていないかについては審判も確認しますが、補助員自身も毎回しっかり確認するようにして下さい。

  • プレートがスリーブの一番内側に接しているか、隙間が開いてないか確認します。
    内側に密着させた上で、必要に応じてカラーのスクリューを締め、ガタつきが無いようにします。

  • 日本記録挑戦時には通常使わない0.5kgプレートや1kgプレートが使われる事があります。陪審員席に用意されていますのでそちらまで取りに行って下さい。
    尚、都道府県大会では日本記録が公認されませんので基本的にこれらは使用しません。

  • 盤替えの最中に、バーベルやプレートで指を挟む、落下したプレートで足を怪我するといった事故が度々発生しています、試合を早く進めるのも大事ですが慣れないうちはまず安全第一を考えて下さい。

  • 各選手のラックの高さはグッドリフトに表示されます。
    エレイコとERは梃子式、パワーラインとブルはレバー式になります。 エレイコとERにはスクワット時のINとOUTもありますが、日本人でINラックが必要な選手は少なく基本的にはOUTになります。 ベンチプレスのみセーフティーラックの高さも調整します。

  • デッドリフトの盤替えはバーベルリフターと呼ばれるバーベルを持ち上げる器具を必要に応じて使用します。

  • シャフトが炭マグで汚れた時はブラシ掛けによる掃除が必要になります、 補助員は試技開始前にブラシが用意されているか確認して下さい。
    シャフトの掃除は審判の指示を受けてやるものなので補助員の判断でやらないよう気をつけましょう。

  • グッドリフトの見方を理解し、常に次の動きを先読みしておけるようになれば、試合の円滑な進行に有効です。


☆グッドリフトの写真☆

グッドリフトとはパワーリフティング試合進行用のプログラムで現在国内外の大会で広く使用されています。




【試技の補助の注意点】

試技の補助とは、選手がバーベルをラックアップしたり戻したりする動きを手伝ったり、試技が失敗した時に素早くバーベルをキャッチし選手が怪我をしないよう助ける役割です。特にベンチプレスやスクワットでは潰れると非常に危険であり、素早い動きと判断力が要求されます。

《スクワット補助の注意点》

スクワットの補助員には以下の2つのポジションがあります。

  • 選手後方(1名)
  • 写真のようにスクワットする選手の真後ろに付き、選手が潰れたら胴体やバーベルを抱えて補助します。
    補助員の中でもベテランの人が付く事の多いポジションです。

  • 両サイド(左右2名ずつ)
  • バーベルのサイドについて補助をします。
    サイド補助は、試技の重量が軽いうちは一人でも十分ですので、残りの一人は盤替えが終わった後は審判や観客の邪魔にならない位置まで下がってもらってかまいません。
    しかし、補助が一人では危険な重量の場合、両サイド二名ずつ付く事になります。

※審判は試技が無事終了した時や失敗した時に「ラック」という合図を出します、審判の「ラック」コールがあれば補助員は素早く選手を補助しバーベルをラックに戻す手伝いをして下さい。

※補助員は基本的には審判の合図が無い限り選手やバーベルに触りません、もし合図が無いのに触ってしまうとその試技は無効になってしまいます、ただし明らかに潰れたり試技が失敗した場合は選手が怪我をしないよう審判の合図を待たずに補助に入る事もあります。

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《ベンチプレス補助の注意点》

ベンチプレスの補助員にもスクワットと同じく2つのポジションがあります。

  • センター補助(1名)
  • 選手のラックアップを補助する役目で、フルギアの重量級では300kgを超える重量をラックアップする筋力を求められ、女子軽量級の場合は補助の力が強すぎると選手のフォームが崩れてしまう為繊細な力加減が必要となります。
    センター補助でバーベルを外した後は、審判や観客の邪魔にならないよう素早くその場から離れ、もし選手が潰れたらすぐに戻りセンターの位置から選手を補助します。

  • サイド補助(左右2名ずつ)
  • スクワット同様、バーベルのサイドに付き補助をします。
    サイド補助は、スクワットと同じく試技の重量が軽いうちは各一人でも十分ですので、残りの一人は盤替えが終わったら審判や観客の邪魔にならない位置まで下がってもらってかまいません。
    ベンチプレスは補助もしやすいのでノーギアの大会であれば基本的に両サイド各一人付いていれば大丈夫かと思います、フルギアの場合は重量に応じて各二人での補助が必要になってきます。

※スクワットと同様、審判の「ラック」コールがあれば補助員は素早く選手を補助して下さい。 基本的には審判の合図が無い限り選手やバーベルに触らないという点や、明らかに試技が失敗した場合は選手が怪我をしないよう審判の合図を待たずに補助に入る点もスクワットと同じです。

※小柄な選手は足台と呼ばれる足を乗せる台を使用します、試技開始前に足台が用意されていさるか確認し、放送席より足台の設置を指示されたらベンチ台にセットして下さい。(足台が用意されて無い場合はプレート等を敷いて代用します。)

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《デッドリフト補助の注意点》

※デッドリフトでは試技の補助をする必要がありませんので、補助員の主な仕事は盤替えになります。

※デッドリフトでは選手が失神して後ろに転倒する場合があります、補助員は試技中も何かあれば選手をすぐに助けに行ける位置に待機し、選手が後ろに倒れてしまっても頭を打ったりして怪我をする事が無いよう常に気を配って下さい。

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【補助の動画】


こちらの動画はスクワットで非常にタイミングの良い補助をしている補助員の動画集です。

選手が潰れた瞬間全員同時に動いて見事にシャフトを保持し、潰れた事による選手の身体への負担も最小限に抑えられます。



一方こちらはあまり良くない補助の動画集。

まずやってはいけないのがラックコールが掛っておらず明らかに潰れてもいないのにバーベルや選手の身体に触ってしまう事、補助員が触るとその試技は無効になってしまいます。審判が「ラック」とコールするか明らかに潰れて危険な時以外は触らないようにしましょう。
選手の体格や挙上重量に対して補助員の体格が小さすぎるのも危険です、大型選手の多い男子重量級の補助員は身長も含めた大きな体格が求められます。



【最後に】

長々と書きましたが、これらを全てきっちり覚えて来て頂く必要はありません、軽く目を通してもらっておいて後はやりながら要領を掴んでもらえれば大丈夫です。
ベテランの方は補助員に不慣れな人が来てもイライラしたりせず、丁寧に教えてあげて下さい。
それに選手の方々にもお願いします。補助員の方々は殆どボランティアで休日を潰し会場にやって来て重労働をやって下さっています、選手の皆さんは補助員に対する感謝の気持ちを忘れないで下さい。

それともう一点、残念な事に選手がバーベルを落下させた事による補助員の受傷事故が国内だけでも過去に何度も起きています、バーベル落下事故の主たる原因はフルギア選手がコントロール不可能な程の重量を扱う事にあり、これについての根本的な解決策というのは未だ見つかっていません。
神戸アジアパワーで補助員をしていた全日本チャンピオンが大怪我を負った事故の後、暫く対策が考えられた時期もありましたが、結局効果的な解決策は出ず、喉元過ぎれば熱さ忘れるという奴なのか最近はあまり議論すらされなくなってしまっているように感じます。
この問題は風化させる事無く対策を考え続けていかなければならないものだと思います、ただでさえ重労働の補助員で、大怪我をする危険もあるとなれば、今後人員の確保は今以上に難しくなっていくでしょう。

このコラムを読んでいる選手の方、特にフルギアの方にお願いします、スクワットでは絶対にバーベルを落とさないで下さい。
フルギアでコントロール不可能な重量に挑戦して選手自身が怪我をしてもそれは自業自得ですが、その為に補助員までリスクに晒すのは間違っています。
パワーリフティングに関わる人達全員でこの問題についてもう一度しっかりと考えていって、二度と受傷事故か起きないようにしていきましょう。




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